令和の星新一!村崎羯諦「余命3000文字」レビュー【ネタバレなし】
■余命3000文字(著:村崎羯諦(むらさき ぎゃてい))
小学館文庫
ジャンル:短編小説集
ページ数:本編269ページ
読破所要時間:約2時間
※1ページを28秒で読み、かつ表題ページを除いた場合のおおよその時間
■要素:ショートショート、シュール、ほんわか、プロパガンダ、恋愛、家族、終末感、死生観
■あらすじ(抜粋)
・余命3000文字:医者から余命3000文字宣告された主人公は、残りの人生を文字数に収まるように過ごすよう心掛けるが…。
・彼氏がサバ缶になった:朝、目が覚めると隣で寝ていた彼氏がサバ缶になっていた。彼氏はすぐに自分がサバ缶になった事に慣れたが…。
・精神年齢10歳児:五年二組に内藤健治(39歳)が転校してきた。クラスメイトは身体は39歳でも心は同い年の健治を受け入れ、仲良くなるが…
■雑感(個人的見解を大いに含みます)
「小説家になろう」に掲載された短編を再編集し1冊の本にしたという本作。
買った当時(2020年9月ごろ?)の帯には13万部突破とあるので、マイナーと言えるのかは分かりませんが、この本を勧めずして何とすると言えるほど大好きなのでとりあえずレビュー。
この本を読んで思った事。
現代の星新一だ…!!!
言わずと知れたショートショートの巨匠、星先生の作品と読感は似ているのですが、文体はやはり口語も適度に混ざった現代風。
それでいて今までに読んだことがありそうでなかった斬新な切り口のショートショートの連続で、脳みそ刺激されまくり。
表題作である「余命3000文字」は、しょっぱな医者から「あなたの寿命は余命3000文字です」と宣告され、しかも話が進むごとに欄外に表示される文字数も減っていくという自由ぶり。
小説に限らず映画だったり漫画だったり、エンタメというものはどれだけその世界観に没入できるかを問われることが多いですが、この表題作については最初から「この主人公の余命を残り文字数の減り方にやきもきしながら眺める」という客観性を強制されるのです。
しかし決して拒絶的ではなく、我々と主人公と医者だけが知りうる主人公の残り人生(=文字数)を、詳細と省略を行き来しながら語られ、最後には読者に「あなたの人生は何文字か」(微妙にネタバレのため反転!)と語り掛けてくる…くぅ~~好き
次に捨てがたいのが「彼氏がサバ缶になった」。もうタイトルから意味わからないのですが、実際中身も良く分からない。けどそれでいい。面白いから。
彼氏はサバ缶になった自分に焦るけどすぐに「そのうち戻るでしょ」と楽観的になるし、でも彼氏がサバ缶だと友達に自慢できないじゃん!と自分本位の主人公。
しまいには彼氏は鰯缶と浮気などというカオス…
何かしらの学びを得るというより、絵がない絵本でも読んでいるかのようなライトでインパクト重視のお話といった感じ。
レビューをするにあたって前半8本読み返したのですが、一本もハズレなく全部面白いってどういうこと。
アフターダークの時も思ったのですが、ある程度面白くなるとされるテンプレートがガッチリ固まっている現代の小説で、それを壊して新しい面白さを作り出している作品に出合えた奇跡は計り知れない幸運だとしみじみ思います。
短ければ5ページ程度、長くても20ページ程度の短編が集まった本作は、読めば読むほど「その発想はなかった」の連続です。
ちなみに調べてみたら2022年に第2弾が発売されているようでテンションぶち上がり。明日買いに行こう。
Aコースを読んでから!山田悠介「Fコース」レビュー【ネタバレなし】
■Fコース(著:山田悠介)
幻冬舎文庫
ジャンル:ミステリー、サスペンス
ページ数:本編163ページ
読破所要時間:約1時間17分※1ページを28秒で読んだ場合
■要素:女子高生、仮想世界、ミステリー
■あらすじ
高校二年生の智里(ちさと)は、成績優秀だが無口で偏屈、一匹狼。そんな彼女は「バーチャワールド」のAコースをプレイしてから仮想世界の虜になってしまい、同じ高校の瑠華、菜穂子、瑠華の妹のかや乃の4人で再びバーチャをプレイしに行く。入った店では新たに導入された「Fコース」を店員に勧められ、4人は仮想世界の中で美術館に隠されたある絵画を探していく。
■雑感(個人的見解を大いに含みます)
Aコースと一緒に図書館に置いてあったので借りてきた本書。
凄く月並みですが、まさかのラストでした。
まず初めに、この作品は何としても「Aコース」を先に読んでから読むべきです。なぜならラストの衝撃は本作の仮想空間ゲーム「バーチャワールド」の設定が存在すること、及び「Aコースのラストの読後感を味わっていること」が大前提だからです。
そうしなければこの作品のラストの衝撃を最大限に味わうことが出来ません。
そして正直言って読後感は良くないです。胸糞の部類に入るかも…。
「Aコース」は読後感も後腐れなくスッキリした作品だったのですが、本作はスッキリどころかズーンと落ち込んでしまうかも知れません。
それでも私は読んで良かったと思います。
真実を知った時の主人公の智里の頭が真っ白になっていく感にシンクロし、妙なエクスタシーを感じたり、現実の非情さだったり、フィクションだからといって全てが気持ちよく上手くいくでもない展開の斬新さに引き込まれました。良い意味で予想のつかない展開に振り回された感じ。
あとなんというか、やっぱり道具は使い方次第なんだなと改めて思わされました。(詳しく書くとネタバレになりかねないのがもどかしい)
あとAコースと異なる点として、登場人物たちのキャラクターの掘り下げがより深くなっていましたね。これにより彼女たちのゲーム中の葛藤であったり湧き上がる激情であったりがより鮮明に感じられました。
その掘り下げがラストに活きているかと思えばそうでもないのがちょっと残念ですが…;
いやしかし、リアル鬼ごっこの作者様と知らず短くてサックリ読めそうという理由で借りてきた「Aコース」と「Fコース」、併せて読んで大変満足。
山田先生の著書の中ではデビューされて間もない時期に書かれたようなので、もっと新しい他の作品も読んでみたいですね~。
手軽だけどしっかりハラハラ!山田悠介「Aコース」レビュー【ネタバレなし】
■Aコース(著:山田悠介)
幻冬舎文庫
ジャンル:ミステリー、サスペンス
ページ数:本編173ページ
読破所要時間:約1時間20分
※1ページを28秒で読んだ場合
■要素:脱出ゲーム、病院、ミステリー、お手軽
■あらすじ
高校三年生の賢治たち5人は、夏のある日、スリルを求めて最近話題の「バーチャワールド」をプレイしにゲームセンターへ向かう。ゲームの世界へ入り込み、火災現場となった病院から抜け出すために病院内を探索していくが、この病院はゲームの世界にしては何かがおかしいと思い始める。
■雑感(個人的見解を大いに含みます)
「リアル鬼ごっこ」の山田先生による著書。実はまだリアル鬼ごっこ読んだこともなく映画もドラマも観たことないのですが、本書を読んでリアル鬼ごっこも読みたくなりました。
サックリ読める薄めの文庫小説を、と思って図書館で借りてきたのですが、いや面白い。
最初のうちはフーンと思いながら読んでいましたが、読み進めるにつれて五人の高校生たちの思惑や信念などが絡み合い、火事で燃え切ってしまえばゲームオーバーという時間制限の中で彼らの奥底の人間性が洗い出されていく様、またゲームが終了に近づいているのに謎を残したまま残りのページ数が薄くなっていくハラハラ感(これ大事ですね)
話の序盤で脱出に当たっては難易度設定が出来、彼らはハードモードを選択するのですが、するとなんとゲーム中に巨大な侍骸骨が現れ彼らに刀を振るってきます。
勿論最後は綺麗に締まって終わりますが、ギリギリまで謎を引き延ばしつつ骸骨とも戦い、挙句に(これ以上はややネタバレになりますが(^^;))何やかんやしてしまう展開に、もうすっかりハラハラしっぱなしです。
惜しむらくは少し短いお話のため、5人の高校生たちのキャラの深堀りがやや足りない印象でしたが、それはそうとして短めながらもしっかりハラハラ出来て面白かったです。
ちなみに今回図書館で同じ先生の「Fコース」も借りてきたので、読んだらレビューしたいと思います!
読む映画。村上春樹「アフターダーク」レビュー【ネタバレなし】
講談社文庫
ジャンル:長編小説、フィクション
ページ数:本編289ページ
読破所要時間:約2時間30分
※1ページを28秒で読んだ場合
⬛︎要素:深夜の都会、ファミレス、ラブホテル、表に出ない犯罪、人の裏の顔、ミステリアス
■あらすじ
深夜12時を迎えようとするデニーズで浅井マリが本を読んでいると、ある男が「ねえ、君は浅井エリの妹?」と声をかけてくる。かつて姉を通じて知り合い、マイペースに語りかけてくる彼にマリは鬱陶しそうにしながらも彼と言葉を交わしていく。
一方、マリの姉エリは薄暗く不可思議な空間に置かれたベッドで昏々と眠っている。部屋に置かれたテレビ画面の向こうからは、エリを注視する何者かがいる。
⬛︎雑感(個人的見解を大いに含みます)
アフターダークといえばASIAN KUNG-FU GENERATIONの同名の曲を思い出しますが、まあそういう訳でこの本をブックオフで見つけた瞬間買いましたよね。
今でも私は村上春樹氏の小説はこれしか読み切っていないのですが、個人的には初めて読んだ村上氏の著書がこれで本当に良かったと心底思います。アジカンともブリーチとも一切関係ないけど、それはさておいて鮮烈で強烈に面白い。このレビューを書くために読み直してますがやっぱり何度読んでも面白い。
何が面白いってこの小説、視点についての表現があるところですよ。
大抵の小説は、ただ単に場面を説明する際に
美しい山々と流れる清流に囲まれた、小さな村があった。
などのような感じになると思うんですが(これが別に悪いわけではないけど)
この小説は冒頭から
「我々は空を高く飛ぶ鳥の視線を借りて、夜の大都市を見下ろしている。」(意訳)
と来るのですよ。
それ以外にも
「我々の視線はテレビの裏側へとゆっくりと周り込み、コンセントが外れていることをしっかりと確かめる。」(意訳)
などなど、さながら映画でのカメラアングルを文章に起こしたような表現が1章おきくらいに来るのです。
本レビューはこの小説のストーリーのネタバレを避けて書くように意識していますが、正直この小説の最も重要な部分はストーリーの深みとかではなく、
文字だけでどれだけ読者を映像の中に引き込めるかという点にあると思っています。
多くの小説は、前述したとおり
一人称視点:主人公の視点で物語が進行 もしくは
神の視点:登場人物達を俯瞰で説明しながら物語が進行
の形式を採用していると思いますが、このアフターダークという小説は「我々」という人称を使用し、劇中の導き手と観覧者を両立した視点で物語が進行していくのです。
この「我々」というのは、劇中において特段の人物像は付与されていませんが、作中の季節が秋の終わりであり、それを「空気が冷たい」と語る程度には主観性を持ち合わせており、しかし主人公のマリを「深夜のデニーズで本を読む口実のためにコーヒーを注文している」という客観的説明も当然あるため、さながら一本の映画の中をガイドされながら進んでいくような感覚に陥るのです。このような特徴は他の小説では今のところ見たことがありません。
これが本作の最大の特徴なのですが、、同時に恐らく最も好みが分かれる点かも知れませんね…。
ストーリー自体は、都会の喧騒と夜の静逸夜の静謐さ、そこに生きる人々が街の片隅で起こすトラブルや日常などを淡々と描き出し、分かりやすい起承転結があるわけでもなく感動的なラストシーンもありません。そういった小説が読みたい場合には全くお勧めできません^^;
しかし、今までに読んだことがないような小説を読んでみたいという方には「とりあえずコレ」と言ってオススメしたい本です。
小説という媒体で極限まで読者に映像体験をさせるという試みは、正に「新しい小説世界に向かう」という裏表紙の文句に違わないものなのです。
興味があればぜひ読んでみてくださいね。
はじめに
私はアラサー女子である。小説を読むのが好きだ。
けれど本格的に読み始めたのはここ2〜3年の話だし、読み切った本も100冊にも届かないライト読者。
それでも、小説ってなんて面白いのだろう!本棚の1列に収まる程度の冊数でも、粒揃いのオススメ小説が私にも出来た。
このブログでは、そんな小説たちを自由にレビューし、あわよくば色んな人に読んでほしい魂胆で運営する予定です。