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二転三転、そして鳥肌。 長江俊和「出版禁止」レビュー【ネタバレあり】

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■出版禁止(著:長江俊和)
幻冬舎文庫 平成29年(2017年)3月1日第一刷
ジャンル:ミステリー
ページ数:本編332ページ(※あとがき込み)
読破所要時間:約2時間50分
※1ページを30秒で読んだ場合

■要素:不倫、恋愛、心中

■あらすじ

著者が手にした「カミュの刺客」の原稿。そこには著名なドキュメンタリー作家と不倫した秘書に対するインタビューと、それにより心境の変化を起こす原稿著者の、愛と謎に対する葛藤が記されていた。

 

■雑感(個人的見解を大いに含みます)

※ネタバレを含みます

 

お久しぶりの更新。ちょっと私生活で他の趣味が忙しくサボってましたスミマセン

で、今回の感想。

 

なんというか、「やられた」という読後感。

むちゃくちゃ面白かったです。

 

あらすじとしては、7年前に著名なドキュメンタリー作家である「熊切敏」が、山梨県の山荘で睡眠薬とアルコールによる自殺を遂げてしまい、その際に共に心中を計画したものの生き延びてしまった「新藤七緒」(仮名)に対し、ライターの「岩橋呉成」が心中の真相を解き明かすために彼女にインタビューしていくというもの。

 

岩橋氏は「心中」という行為に対し、浄瑠璃歌舞伎『傾城仏の原』に記されている「互いに命を捨ててでも、証明しようとした激しい恋情」という意味合いが、いつしか現代では「誰かを道連れにする」という、愛とはかけ離れた意味に変化しつつあることを認識しています。

もはや現代には「死を以て愛を証明する」といった心中は存在せず、フィクションの中だけの話になってしまったのか。

そんな中、上述の新藤七緒に出合い、インタビューしていくうちに、七緒は熊切敏に妻がいる事を知りながら、それでも抗えない深い愛に溺れていった事を聞かされます。

 

最初の内、岩橋氏は「熊切と七緒の心中未遂は偽装工作で、実は何者かが熊切を殺害しようとしたのではないか」と考えます。熊切氏は政治等の裏世界にも切り込んだ作品を発表するドキュメンタリー作家で、題材にされた政治家からは恨みも買っていたとのうわさ。そのために七緒が刺客として送り込まれたのではないか…。

 

と、話の3分の2くらいは上記の謎を解き明かしていくのかなという感じで読み進めていったんですが、この話の本筋はそこじゃなかった。

この小説のテーマは心中事件の謎の解明ではなく心中そのものでした。

 

七緒は不思議な魅力のある美人であり、岩橋氏も初めからそのことは認識していましたが、後からその魅力によって人として超えてはいけない一線を越えてしまいます。

何というか、後半3分の1の怒涛に押し寄せてくる衝撃の展開や伏線の回収に一気に引き込まれてしまいました。これ以上はネタバレするともったいないので本当に読んでほしい。

一部ミステリーらしく気分が悪くなりそうな表現もあったのでそこは注意。

 

また、この小説の凄いところはこの小説があくまで長江俊和氏の体験談として書かれたノンフィクションの体を守っているところです。

序章からあとがきに至るまで、この小説が実際に起きた話なのではないか?と思わせる技巧、まさにエンターテインメント。

実際、ヤフー知恵袋にも「この小説は実話ですか?」といった質問もありました。それには「フィクションです」と回答が付いていましたが、それでもなおこの世のどこかで起きたかもしれない生々しい表現性。

 

浅学ながら著者の長江氏は「放送禁止」シリーズ?の作家さんだそうで、こういった作品を作り出す方のようです。

他の著作も読みたくなりました。本っ当に面白かった・・・。ずいぶん前にブックオフで買ってたので早く読めばよかった。ありがとうございました。