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救いのあるご都合主義。百田尚樹「輝く夜」レビュー(ネタバレなし)

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■輝く夜(著:百田尚樹)
講談社文庫 2010年11月12日第一刷
ジャンル:短編小説
ページ数:本編195ページ
読破所要時間:約1時間30分
※1ページを28秒で読んだ場合

 

⬛︎要素:クリスマス、不思議な出来事、巡り合わせ、

 

■あらすじ

魔法の万年筆より)

クリスマスイブ、経営が思わしくないからと会社からクビを宣告された恵子は、幸せそうに街を歩く人々を横目に沈んでいた。そんな中、ふと見かけたホームレスの男性に親切にしたことで、恵子は「魔法の万年筆だよ」と言われ、小さな古びた鉛筆をもらい受ける。

 

■雑感(個人的見解を大いに含みます)

永遠の0で著名な百田尚樹氏の第二作(巻末解説より)

百田先生の作品は「カエルの楽園」しか読んだことがなく、その時は誰もが目を背けたくなる現実に真っ向から斬り込む先生なんだなあと思っていたんですが、この「輝く夜」を読んで印象がガラッと変わりました。

 

正直、この作品は一言で言えばご都合主義極まれりなんですが、アラサー独女の私にはこれが沁みる。時期も時期だから余計に・・・

本作は「魔法の万年筆」「猫」「ケーキ」「タクシー」「サンタクロース」の5本の短編集なのですが、それぞれ不運や不幸を背負った女性が主人公となっており、それぞれに相応の救いが待っているというお話です。

 

特に好きなのは「ケーキ」でした。これは終わり方に賛否両論あると思いますが(どんな作品でもそうでしょうけど)私も死ぬときはこんな死に方したいと思える最後でした…。自分が世界一不幸だと思ったとしても、ひと時の夢で幸せに過ごせたらそれで良いのにな…と思うことが出来ますし、これを読んでそんな人生を疑似体験も出来たので、お気に入りです。

 

あと興味深かったのは、この「ケーキ」のラストが映画「インセプション」と通じる部分もあると感じた事でした。

ややネタバレ気味になってしまいますが、インセプションでは「夢の中で感じる時間は現実世界より遥かに引き延ばされる」と語られており、それがこの「ケーキ」でも同様になっている点が面白い。ちょうど公開時期とこの本の発売時期も似ているのが更に。

夢と現実を同時に扱う場合はきっとそのように決まっているのかも知れませんが、数少ない私が観た作品で共通点を見つけられたのがちょっと嬉しかったんですよね。

 

「ケーキ」の話ばかりになってしまいましたが・・。

 

「猫」は裏があるかも知れないイケメンやり手社長と派遣社員の主人公の話。不倫の片棒を担いでしまった過去を持つ雅子と、みーちゃんという猫が引き寄せる偶然。これは一番うまい事出来ている偶然と、社長の掲げる主義の一貫性が気持ちいい短編でした。

 

「タクシー」は、沖縄の海で偶然出会った男性に自分はスッチーであると嘘をつき、本当は工場で働く鞄職人であると言い出せずに無理をして自分を着飾り、それに耐え切れなくなり連絡を絶つ話。

友達に乗せられてずるずると嘘をつき続け、相手が自分にのめり込んでくることに悪い気はしなかったけれど騙している罪悪感がじわじわと胸を締め付けてきます。

正直これは男性側からしたらふざけんなと思わんのかな…と思うけれど、百田先生がこう書くならまあ作中では良いのでしょう。たぶん。

 

また「タクシー」は他の4編と違い、絶妙に「現実でありそうだけどなさそう、だけど奇跡が起きればたぶんあるかも」なラインを突いているので、こんな恋してみたい~~~!と溜め息出ちゃいますね。

 

カエルの楽園とは全く違った味わいの本作、百田先生のテイストの幅を知れて大満足でした。

クリスマス、独りで頑張っている人は読んでみるとちょびっとだけ心が救われるかもです。