【ネタバレあり】歪んだ愛と純粋な絆。知念実希人「神のダイスを見上げて」レビュー
■神のダイスを見上げて(著:知念実希人)
光文社 2018年12月20日第一刷
ジャンル:ミステリー
ページ数:本編355ページ
読破所要時間:約2時間40分
※1ページを30秒で読んだ場合
■要素:隕石、世界滅亡の日、破滅、復讐、禁断の愛、友愛
■あらすじ
発見者の名前にちなんで「ダイス」と名付けられた小惑星は、ある日突然軌道を変えて地球へ向かってくる。ダイスが墜ちてくる、墜ちてこないの論争で次第に世界に混乱が広がり、ダイスの落下「裁きの刻」の予報まであと5日となった日、亮は姉・圭子を殺した犯人を捜すために動き出す。
■雑感(個人的見解を大いに含みます)
どうしてもこの作品は完全なネタバレなしでレビューするには私の力量が足りなかった。
知念先生の作品は他に死神シリーズ3作読んだんですが、毎度凄く読みやすいんですよね。文章が親しみやすいというか。
しかしながら死神シリーズとは打って変わって、この「神のダイスを見上げて」は全く安堵の瞬間が無い。直径400㎞という絶望的な大きさの小惑星「ダイス」の落下予想地点は日本。少しでも生きながらえようと世界中の人間はブラジルへと逃げ、日本の閣僚は地下シェルターに籠ろうとし、国民はシェルターを開放しろと国会議事堂を取り囲んで暴徒化する。ダイスが降ってくると信じ込んだ人々は「ダイス精神病」を発症し自殺する人間たちまで出る始末。
そんな荒廃しつつある世界で、主人公の男子高校生・亮は殺された姉の仇を討とうと犯人捜しを始めます。
この時点で上手いなって思ったのが、既に国が大混乱で内乱を抑えるために警察が動員されていて、亮が独自に動いて犯人への復讐を果たす舞台が綺麗に整っているところなんですよね。
一応、岩田さんという女性の刑事さんが捜査担当者なんですが、彼女も彼女で正義感とかじゃなくて自分のためにこの事件を解決したい人なんですよね。
警察は未だに男社会だから、女の自分がのし上がるには「美人女子大生が無残に殺された」この事件を解決へと導くしかない。出世へのまたとない大チャンス。だから捜査に協力してよね?って感じ。
そして重要人物・四元美咲。彼女の母は美咲が体育の授業で捻挫をしたら、カタギじゃない男たちを引き連れて校長室へ乗り込み「誠意を見せろ」と土下座を強要するような、モンペという言葉すら可愛く見えるヤバママ。その出来事がきっかけで美咲はクラスから完全に孤立。
そして主人公・亮の姉、圭子も、作中語られる人物像はかなり妙で、人当たりもよく大学では人気者ですが、亮に対して姉弟の域を超えた愛を亮に示していたり。
亮も雪乃ちゃんという恋人がいるのに、いくら殺されたからとはいえ考えるのは姉・姉・姉のことばかり。父は愛人と駆け落ち、母は癌で亡くなり、二人きりの姉弟となって、まるで癒着するかのように亮と圭子はお互いのことばかり考えていた。
で、経過は省きますが、結論。(ここから下は物語の核心に触れます)
圭子が殺されたのは、圭子自身ががそう仕組んだから。
圭子は異性のみならず同性も魅了し、そして利用した。
大学の友人である東雲香澄の好意を利用し、自分を殺させ、亮に「姉を殺した犯人への復讐心」を植え付け、「裁きの刻」のその瞬間まで自分のことを考えていて欲しかったから。
圭子は弟である亮に恋心とも言える巨大な感情を持っていたんですね。
そして四元美咲の母も、美咲のことを自分の人形としか見ておらず、癌で体を侵されながらも「美咲、裁きの刻の時まで一緒にいて。ママと一緒に死ねるの。嬉しいでしょ?」と半狂乱になって迫ります。
美咲は美咲で肉親の呪いに掛けられていた。
全ての謎が解け復讐心から解放された亮と、母が死に「母の所有物」という立場から解放された美咲は、隣り合ってお互いを友達と認め合い、墜ちてくる赤い星を見上げて物語は終わりを迎えます。
で、読み終わって思ったんですが、この作品。
登場人物の中にロクなのがいねえ!!!
まともなのは最後の方に出てくる自衛官くらいじゃないの。あと魚住君と牧師。
というか主人公が度を越したシスコンの時点で共感もへったくれもないんですが、それでも地球が終わるかも知れないという状況だったら、まあみんな好き勝手なことするよねって。
そして今、某国で起きている戦争のことを思い出す。
地球が終わりとまでは行かないまでも、空から爆弾が降ってくる日は正しく破滅の日と言えるでしょう。
そういう状況になった時、私はどんな行動を取るだろうか。
私は亮のように殺したいほど憎い相手がいるわけではないけど、最後の時まで大切な友人や家族を想うことが出来るだろうか。
それとも「くたばれクソジジイ」と思っている父の悲惨な死を願うだろうか・・・。
…私もろくな人間じゃない。
いずれにしても、自分の世界の終わりが迫った日に、どんな行動を取るかを考えさせられた。
「死神シリーズ」もそうでしたが、お医者さんでもある知念先生の医学トリックや、意外と身近に存在する「死」にどう向き合うかを思い出させてくれる。
これもまた大切な1冊になりそうです。