冷や汗・学び・また冷や汗。。 奥田英朗「家日和」レビュー【ネタバレなし】
■家日和(著:奥田英朗)
集英社文庫 2010年5月25日第一刷
ジャンル:短編小説
ページ数:本編241ページ
読破所要時間:約2時間
※1ページを30秒で読んだ場合
■章構成:
■あらすじ
(第一章「サニーデイ」より)
要らなくなったピクニックテーブルをオークションに出し、高評価を付けられたことで自信を持った主婦、紀子。夫も子供たちも相手にしてくれず、オークションの評価が自分に価値を与えてくれると感じ始め、家の中のものをどんどん出品する。次第に、夫の趣味のギターにも目を付けるが…
■雑感(個人的見解を大いに含みます)
初めに言っておきたい。
・この短編集は全て尻切れトンボです。
・どこが「やさしくあったかい筆致」やねーん!!
いや最初の「サニーデイ」とかほんと冷や汗掻きながら読んだが??こんなヒヤヒヤする小説久しぶりに読んだわ。
さて第一章。いや、分かるんですよ。世間と隔絶されてるなって思ってる中で、オークションであっても褒められたら嬉しいから、もっと出品しよう、ついでにお金も得てエステ行ってランチ行って…ママ友間でも褒められるようになった、もっと出したい…そういえば夫のギター、長い事使ってないよなあ…
だ、ダメだーーー!!それだけはーー!!;;;;
自分が興味ないからって、同居人(夫)の私物を勝手に売りさばいて云々ってくだり、某巨大掲示板でも有名なエピソードがありますよね…そしてそのご夫婦がどうなったかはまあ、うん、誰も幸せにならない破滅的な結果になったわけですが、それと類似する話をこうして小説で読む日が来るとは・・
結局この主人公がどうなったかはネタバレなしレビューなので書きませんが、とにかくしょっぱなから「日和」とは??と思わずにはいられないパンチの利きまくった第一章。
続いて「ここが青山」。このエピソードはこの本の中で一番好きでした。
超簡単に言うと凪良ゆう先生の「流浪の月」と似てます。あれのサラリーマン版みたいな。
ある日突然、社長から会社の倒産を告げられ失職してしまった裕輔。妻にそのことを伝えるも「あ、そうなの?」とあっけらかん。次の日から息子の世話と家事全般は裕輔の担当となり、妻は前の会社への復職をあっさり決め、バリバリ働きだす。
お互いに今の方が楽しいと感じているが、世間は「会社が倒産した哀れな夫とそれを懸命に支える健気な妻」と見るばかり…といった感じのあらすじ。いやもうかなり流浪の月だな。
こういう「自分たちが感じている幸せと世間の目から見た幸せの乖離」の話、ほんと定期的に読みたい。読んで良かった。大事な友人達とかかわるとき、自分の考える幸せ=他人の幸せだと思い込まないようにするって無茶苦茶大事ですもんね・・
あと「人間至る処青山有り」も初めて知った諺なので勉強になりました。この考え方も、活かせるかは別として心に留めておけばいつかきっとこれに救われる日が来ると思う。
さて続いて「家においでよ」。妻の仁美に出ていかれ、離婚前提の別居を始めた亮は、何故か急に開放的になり自分好みのインテリアや高いコンポを買い込む。妻が帰ってくるどころかやがて同僚が入り浸るように…。
これ途中で気づいたんですが、主人公、インテリア買い漁ってる間ぜんぜん奥さんのこと思い出す描写ないんですよね。それに気づいたときちょっとゾッとしましたが、同時に人間関係も大事だけど、それと同じくらい大事にしたいものを蔑ろにしていないかを振り返ることって大事だなって思いました。
人間は生きていて感情もあるから、目の前にいる人を尊重することは確かに大事なんですけど、自分を押し殺すことは良くないし、バランスが難しい。。
自宅で内職をする弘子のもとに、新しい担当者の栗原がやってくる。無遠慮に家に上がり込んでくる栗原からは柑橘系の香水の香りがし、彼がやって来る日の夜、弘子はグレープフルーツに犯される夢を見る。
突然始まる官能小説(?)。夫に対する後ろめたさが、グレープフルーツの怪物に犯される快感を上回って、段々現実世界でも栗原に性的アピールをし始めて…という。これは「サニーデイ」と似ていて、夫に言えない秘密を持ってしまった話ではありますが、
私物売りさばきと心理的浮気…どっちも嫌だなあ(^^; 日和とはいったい(2度目
突然会社を辞めてカーテン屋を始めると言い出す夫の栄一。春代はまたかと思いながらも、店が軌道に乗り始めると、自身のイラストレーターの仕事も不思議と上手くいって…。
いやこの夫絶対なんかあるだろ・・・・・・!!!!!と読みながら始終思ってました。
なんかこう、思い立ったらすぐ会社辞めちゃうし、よく考えないで何百万も融資受けるし、胡散臭いバイトを「最初に面接に来たから」って勢いで採用しちゃうし、それ全部妻である春代に相談なしに全部勝手に進めちゃうの・・・
結果的にうまい事行ってるみたいですけど、現実にいたらぶっ飛ばし案件。しかしイライラがスカッとに昇華される不思議な読後感。
急にロハスにはまりだして夫と息子二人に強要する妻と、振り回される家族の話。
奥さん・・・・頼む落ち着いて!!!!
近所のナイスな夫婦に触発されてヨガに行ったり、流木でインテリア作ったり、食べ盛り育ち盛りの息子二人のトンカツ要求を跳ねのけお手製野菜ジュースを出したり…
カァーーーーーー!!
私別にロハスとかヴィーガンとか本人の好きにすればいいと思ってる人間ですが、他人を巻き込むのはノーサンキュー!!!
そんでもって奥さんが教祖のようにあがめる佐野夫妻。
一番くぅッって思ったのが
「大塚さん、ぼくより2つ若いんですよね」知っていて、わざと人前でいう。
い、いるーーー!!こういうやつ絶対いるーーーー!!!
現実世界では幸い私の人間関係の中ではこんなやついないですが(過去いたかもしれない、もう縁が切れてるけど)
この佐野夫妻、周りから見ても若々しくてキラキラで、みんなから羨ましがられる立場なのに、なんで他人を貶めるのか。
わざとじゃなかったらとんでもない非常識大馬鹿ですが、わざとだったら恐ろしい性悪ですよ。。。
でももしわざとだったら、この佐野夫妻もちょっとかわいそうなんですよね。だってどんなにキラキラしても、他人と比べて綺麗で幸せだって常に感じてたいって焦ってる感じしますからね。
気持ちは分かるけど・・・他人と比べることって疲れちゃうよ・・・。
ラストのオチはちょっと好きになれないんですが、それも含めてやはり自分の主義主張は他人に強要すべきではないと強く再認識出来る話でした。
■まとめ
なんか散々書いてしまいましたが、それだけ各章の人物描写が生々しく、これが奥田節…!!!と感銘を受けたのでした。いやーヒヤヒヤしたりイライラしたり考え込んだり、面白すぎた。
最初に書いた通り、本書の短編はほとんど尻切れトンボな終わり方をしていますが、それでもいいって方には是非読んでいただきたい。超おすすめです。
他者の少しの非日常を覗きながら、我が身を顧みる良い機会を与えてもらえる小説です。
ああ~~~、奥田先生の本他にも読みたい。でも次は知念先生の長編を読むんじゃ~~~