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読むと何となく気が楽になる。奥田英朗「イン・ザ・プール」レビュー【ネタバレなし】

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イン・ザ・プール(著:奥田英朗)
文春文庫 2006年3月10日第1刷
ジャンル:ギャグ、コメディ
ページ数:本編271ページ
読破所要時間:約2時間10分
※1ページを28秒で読んだ場合

■要素:病院、神経科、変わった病気

■あらすじ

(表題作イン・ザ・プール

内臓がざわざわとしているような体調不良を感じた大森和雄は、伊良部総合病院で様々な検査を受けるが異常が見つからない。内科の医師に「この病院の地下にある神経科へ行ってみては」と勧められて尋ねてみるものの、そこで和雄を出迎えたのはでっぷり太った変わり者の医師、伊良部一郎だった。ろくに和雄の話も聞かず適当な診察をする伊良部だが、「運動はした方がいいよね」と言ったことで、和雄はプールへ通ってみようかと思い立つ。

 

■雑感(個人的見解を大いに含みます)

表題作イン・ザ・プールの他、陰茎がずっと勃起しっぱなしで会社でも失敗してしまうのを何とかしたい「勃ちっぱなし」、誰かにストーカーされていると思い込んでいる「コンパニオン」など5編の短編小説が収録されています。

 

いかにも精神世界の不思議さを想起させるような青い表紙とは裏腹に、中身は変わった病気に必死に向き合う患者たちと、それをキングオブマイペースで解決していく変人医師。

何が変ってもうほとんど全部変なんですよね。

ねっちりと描写される伊良部の容姿や言動は「デブ」「頭を掻くとフケがパラパラ落ちる」「鼻くそを壁に擦り付ける(ヒェッ)」……

主人公、それでいいのか?ってくらい物理的にきたない。。

ついでに精神的にも幼く、「超マザコン」「美人に弱い」などこれでもかというくらいに負の属性のフルコース。

 

ついでにアシスタントポジのナースのマユミちゃんも変人。スリットの入ったミニスカートに、胸の谷間が見えている格好とかどういうこと。ちなみにこの露出はマユミちゃんが意図的にやっているそう。

結構前の出版なので現代ではスカートの看護師さんのイメージはないんですが、それにしたって奇抜。

 

しかし、不思議と読後感はさっぱりしているのです。

 

それはひとえに患者たちの悩みが最後にはちゃんと解決するからなのですが、その過程がやっぱり伊良部医師のマイペースさによって引き起こされるトンデモ展開で、日常では中々経験し得ない困難だからなんですよね。

それでいて、人が死ぬようなこともなく基本的にはギャグチック(患者たちは必死ですが、それもまたスパイス)に描かれているので、気負いなく読めるのも好きポイント。

 

個人的には、どっぷり落ち込んでいる時に読むと少し気が楽になれる本なのでお気に入りです。特に「勃ちっぱなし」は秀逸。勃起を隠そうとするあまりに会社でも却って変な目で見られ、仕事も全く上手くいかず、挙句の果てにとんでもない事をしでかしてしまう流れは、少々の悩みなら洗い流されてしまうようなパワフルな展開です。

 

恐らくは主人公の容姿の描写が汚すぎて永遠に映像化されることはないのでしょうが、お気に入りの一冊としてこれからも本棚に置いておきたいです。